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双子、というかニールさん捏造過去話。
二期でそこら辺が明らかになるまでには書き終わりたい。
続き物です、お付き合いください。

今から300年も未来なんだから、インテグラルタイプのサプレッサーのひとつも完成しているはずと願望も込めて。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++






 カチャッ


 人気のない路地、インテグラルサプレッサー、薬莢、こちらを見た昏い目、ヂヂ、と明滅するランプには虫達。
 亜音速の銃弾は、狙いを誤たずに男の左胸へと吸い込まれた。





 この近辺に潜伏しているというテロ組織構成員達の写真を、ずらりと並べて見せられた。中東系が5人、と現地協力員か、ブリティッシュらしき栗毛の男が1人。何らかの工作のためにこの都市へ送り込まれてきたのは明らかだ。根拠地は大体の予想通りだと判断できる語尾の響きを持っていた。何々人の土地、という意味らしい。分かりやすくて、嫌いじゃないな、そういうのは。
 見慣れない人種だから顔の見分けがつかない、なんてことはもうなくなった。じい、と写真を睨む。大丈夫だ、俺もだ、という同志の声に連ねるように、覚えた、と一言簡潔に言う。出席者は自分を入れて8人。顔を見せていないのがあと3人いるが、どいつも自分より年上で、皆成人しているらしかった。
 さして広くもない部屋はヤニで薄汚れ、その元凶は今も紫煙をあげている。久々にニコチンでも摂取するか。そう思って隣の男をつついてせびるも、生憎これで品切れだ、と目元を下げながら、彼は灰皿にまだ吸えるだろう煙草を押し付けた。子供扱いされているな、これは。ニコチンは諦めて今晩の献立を考えることにする。今日は自分の当番だった。




 一発で済むならそれが一番だ。銃弾は無尽蔵にある訳ではないから、こんな男に何発もくれてやる義理はない。放たれる殺意の塊は疚しいルートで手に入れたものであり、今指をかけようとしている拳銃だって何処かの軍の払い下ろしで、銃把の底には渡された時から大きな傷がついている。
 至近、5メートル、絶対に当たる。それでも照準は男の左胸、血を全身に送り出すところへ。
 首の裏、脳幹の辺りを撃たない限りそれはショック死なのだと聞いたことがある。脳髄が飛び出すのを見るのは嫌いなんだよ、そもそも目の前の標的は心臓を撃たれて死なないような男には見えない。
 冷静に弾一発の値段を割り出そうとしている自分に気付いて、手慣れたもんだ、と銃爪を絞った。男の命よりちっぽけな鉛玉の方が貴重だと自分の頭が弾き出す前に、撃っちまおう。そうすれば、御破算になる。
 狙いを定めるのはこんなに簡単だったか、あぁそうだ、近頃はライフルばかり使っていたから、ホルスターから 拳銃を引き抜くのは久々だ。
 サプレッサーでも音は、する。あの如何にも銃声です、といった音が響き渡らないだけで、何やら玩具の様な音が、するのだ。それに、惑わされている気も、しないでもない。映画のように見事な銃声が響いたら、おれはまた元のように竦み上がって逃げ出すかもしれない。安っぽい、とても薄っぺらいものに騙されて、酩酊して、 そのまま男と目があった。まさに死ぬ、その瞬間の目と。
 ぞくり、肚か背骨か、その辺りから何かが体を駆け抜ける。それが元は恐怖だったことにさえ、もう麻痺した自分にはわからない。

 



 区画整理が充分でないせいで薄暗い路地はフラットへの近道で、治安がよろしいとはお世辞にも言えないが、知り合いの多い地域でもあった。酒や人や物騒なものを扱う所には人が集まって明るく賑やかだ。そんな所を通ると何故かひっきりなしに声をかけられてしまうので、暗い方を選んで歩く。
 ちらりと視界の端に入った灯りは、一昨日長話をしてしまった女主人の酒場だった。気立てが良く、店内は何時も人で溢れている。
 その時片割れと間違って彼女は自分を呼び止めた。作り過ぎたから持っていって頂戴。まだ温かさの残るホワイトシチューを一鍋、手渡された。あれがまだ残っていたから、グラタンにでもしよう。
 いつもライルに渡すんだけどね。そういってから彼女は、あ、と手で口元を押さえる。怪訝な顔で首をささやかに傾げて見せると、諦めるように肩を竦めた。ちょっと前からね、私の所で働いてるのよ、あの子。あなたには言うなって言われてたんだけど、だめね。隠し事って苦手。彼女は困ったように笑って、ここ最近片割れの稼いでくる札束の出所を教えてくれた。自分のそれと違って片割れが持ってくる金銭は汚れていないのだ。何とも言えない安堵が心を過る。
 もちろん危ないことはさせてないわよ!店支度と厨房と手が足りない時はフロアにも出てもらってるわ。結構人気でちょっと嫉妬しちゃうくらい。わざとらしく拗ねた顔をする。決して若くはないが愛嬌があって可愛らしい。
 だからあいつこの頃料理のレパートリーが増えたのか、と納得しながら、二言三言お世辞とも本心ともつかない讃美を添えて彼女と別れた。
 そこから三つほど角を曲がった所だ。あの写真の中の一人に出くわしたのは。





 まずった、と思った時には遅かった。目が合って、認識して、本能的な衝動で撃ってしまったのだと気付いた。脳を支配していたおぞましい熱は冷め、スローだった世界が動き出す。怒声、足音、中東系、写真の2人、銃口――が見える前に辛うじて走り出す。角から数歩の所に立っていたのが幸いした。自分の方が地理感覚は強いはずだ、そう思って大通りへ抜ける最短ルートを駆けだした。
 入り組んだ路地だ。遠くとも10m先には角がある。洗濯物のアーチを潜って三つ目の角を曲がった。
 どうやらこちらの方が足が速いらしい、急所を狙えはしないだろう。その考えが甘かった。役割柄、銃は狙って使うものだ、と思い込んでいた。あともう少しで大通りから二つ目の角、そこで甘っちょろい予想は裏切られる。
 チャ、後ろから銃を構える気配。続けて三発、こちらもサプレッサーで抑えられた内部機構の動作音だけだ。一発目はレンガにめり込み、二発目は何処かで跳弾した高い音が鳴る。そして三発目は、自分の左上腕を掠っていった。鋭い痛みに思わず息を詰める。まさか。右手で押さえてみれば、そこは生暖かく濡れていた。運悪く太めの血管を切ったのか、傷の深さの割に出血が多い。
 思わず舌打ちして、それでも速度を落とさずに大通りまで駆け抜ける。夜の繁華街は人で溢れていて、姿を眩ますには絶好の場所だった。色とりどりのネオンと濃い色の上着のお陰で左腕の出血は目立ちやしないが、他人に血糊が付かないよう、上着の布地を皺寄せて集め右手で強く握った。出来れば止血も兼ねられれば、と思いながら。




 そういえば追っ手の二人に片割れと同じ造形をしたこの顔を見られたのだと気付いたのは、フラットが目視出来る所まで辿り着いた頃だった。彼女にあの使い込んだ鍋を返せそうにないな、と同時に思った自分を、一瞬後には殴ってやりたくなった。

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