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グッバイ、ハニー!

森/之/宮/神/療/所シリーズ(特に一作目)をヘビロテ中です。
ほんとずっと聴いてると奉納したくなるから不思議。


アニュライ小話(らいるさんのグズグズした独白とも言う)を書いたので投下。
そういえばハニーって女性から男性への呼びかけでも使うそうですね。
ということで表題はあにゅさん→らいるさんで。
今更のような気がしますが死にネタ注意です!

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 目の前の女が、笑った。赤の眸が眇められて、頬を染めて、元来の気の強さを保ちながら、それでも眉を下げて穏やかに、笑った。


 いっそ逃げられればいいとも思った。生きている彼女を連れてどこか遠くへ。掻っ攫ってしまいたい。そう思ったりもした。
 だってそうだろう? …と言うにはあまりに短絡的かもしれないが、彼女の目にはまだ自分を想う心が残されていた。それだけで、おれには十分だったんだ。閉鎖された空間の中でのおれの幸福は彼女そのものと言っても過言ではなかった。戦場にだって、花くらい咲いてていいだろう。そうやって、長閑な銃後の世界で平和ボケした頭は昔に経験した最悪の結末を選択肢から早々に排除していた。花の下に地雷があることなんて、計算に入っている訳がない。もう殆ど会わないつもりでいた兄が死んでもこの様だ。カタロンに入ったところで変わりもしなかったのだから、当然といえば当然である。実感のない死ばかりが周りに撒き散らかされて、その状況に恐怖し激昂する。何度これを繰り返しても死の実態は掴めないに決まっていた。簡単に言えば、逃げていたのだから。
 今は亡き血縁者と、敵対はするも生ある恋人。両者とも天秤にかけてはいけないものの極みだろうに。かけてしまえば、答えは初めから出ているか、永遠に出ないかのどちらかだ。前者であればその答えに一喜一憂することになる。後者であれば見極める内に今在るものさえ失いかねない。愚行ここに極まれり、である。

 過去に在る者を思うより、目の前に在る儚い命を愛しむ方が大切なことだ。今手を伸ばして救えるのなら、そうしたい、と思った。たとえ敵であっても、困難が待ちうけようとも。
 ただ、自分の持てるだけの力より、彼女の裡に刻まれた歪みの方が大きかったと。ただ、それだけである。


 差し伸べた両手から彼女が温かいまま消失していく。この温かさはもう戻ってこないし、勿論触れる事だってできないのだ。死は酷く温かく安らかに、彼女を包んでいった。

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