ロックオンというものについて。
ティエの成長は目覚しいですね。
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刹那は、驚いていた。
古の学者の名を冠したこの船には、近頃頓に乗員が増えた。刹那は勿論だが、懐かしい顔が二人、招かれざる客が一人、傾国の姫が一人、そして新たな者。アレルヤを除けばほぼ刹那が拾ってきたに近い者達だった。その中でも特に、ロックオン・ストラトス、という名の彼は異質だった。
自分も初めて見たときには相当に動揺した。血縁者、しかも同姓の兄弟だというのだからそれなりに似ているのだとは思っていた。それなりに、という形容はすぐに大幅な修正を要することとなったが。似ていない部分を惜しいと思う位には、彼は彼に似ていた。
彼は彼だ。それは間違いない。しかし彼は彼に似すぎている。それもまた確かだった。惑う者もいるだろう、何か言われても反論は出来ない。そう覚悟していたのに、行動を起こしそうな最たる者は少々の苦言を漏らしただけだった。しかもそれらは彼の能力や態度に対するもので、彼の立場に関しては未だ言及をみず、また衝突らしい衝突も無いようだった。心中に在ったとしても表面に出てこないだけなのか。そうだとしたら四年とは、なんと大きいものだろう。以前ならきっと取り乱し、あの透明度の高い良く通る声で有らん限りに批評を下したろうに。月日とはこうまで人を変化させ、即ちこの場合は成長させるものなのかと、刹那は本当に驚いていた。
逆に人一倍動揺はするが、行動に出さぬと思っていた者とは一悶着有ったらしい。彼が(この短い期間でだが、)珍しく表情を作らずに苦い顔をしているのを見たし、彼女が目を伏せて佇んでいるのを見た。どちらも人の気配を感じるとすぐに平静の貌へと戻り、誤魔化すように何か用かと訊いてくる。刹那は彼をマイスターにしたこととは別次元で、皆に、特に彼女と彼に対しては酷なことをしたと感じていた。自分には一年、否それ以上の余地が有った。しかし彼女と彼には無い。大きな差だ、と思う。疎い刹那でも気付くほどに彼らは彼を慕っていたのだ。四年前の彼を。向ける好意の質は違いこそすれ、思いの強さはさほど変わりはしない。それらを揺るがすように、刹那は彼を連れてきた。これが正しい行動か今は分からないが、何れ分かる時が来るというのなら、その時まで、信じて待つしかない。彼を、彼らを。
彼は彼として自分達との中に位置を定めるだろう。そして自分達も、彼の存在を各々の形で消化し、納得し、認めるのだろう。四年という月日はそれを充分に可能にした。許容の可能性を刹那に提示したのだ。ならばその手をとるべきだ、と刹那は思う。
そして刹那は、彼をこれ程までに信じていることには気付かない。
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