AB!で軍パロ。今回は音日。元ネタはついったのみなさん!http://togetter.com/li/34846
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先の戦線での戦功により、貴官を下記の年月日より少佐に叙する。
紙切れ一枚の昇格通知が届いたのは、つい先日のことだった。自分の年齢に比してこれは異例の昇進スピードだ。先任少佐で部隊長のゆりっぺは更にその上を行っているが。まぁ上の狙いは見えてる。この部隊を敵の目の敵にしたいんだろう。どうせ端からここははみ出し者の吹き溜まり部隊だ。全滅しようが上層部に痛手は無いし、使えるだけ使っておこうという魂胆だろう。
「今日付けでSSS附副官に着任いたしました、音無准尉です!」
カッと踵を揃えて陸軍式の肘を張った敬礼をする。歳は同じくらい、背格好は自分の方が少し上回っている。元はといえば彼は軍医なのだから、体格差はしようのないことだった。
「実質、俺附の副官だ。そう思って動いてくれ。」
「了解しました。」
「実戦時には軍医相当の扱いになるようには言ってある。そっちも期待してるからな。」
「は、」
意外そうな顔をする。それもそうだ。こんな柔軟な人員運用、他の隊じゃしないだろう。万年人手不足のSSSならではだ。
「もともと軍医がほしかったんだよ。この隊には看護資格持ってる奴しかいなくてさ。けど使える人事枠が副官しかなくてな…だから平時は副官で、よろしく」
歩み寄ってどん、と銀色の飾緒の下げられている右胸を軽くたたく。通常の場合飾緒は金色だが、副官はそれとひと目でわかるように色が変えてあるのだ。物珍しくそれを眺めながら、握手のために手を差し伸べた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
白手袋を滑らかに外し、あちらの手も差し出された。がっちりと握手をして、何もなかったようにそれをはなす。
俺のデスクの斜め左にある自分の定位置につこうとした彼の背中に、ぽんと声を放り投げた。
「敬語、」
彼が振り返る。顔には何も表情は浮かんでいない。とても事務的な所作。
「もういいんじゃねえの、似合わないし」
すう、と目が眇められた。さて、どうだ。
「お前がそう言うんなら、やめるけど…」
声が柔らかくなる、と同時に今までのやりとりを思い出してどちらともなく笑い出した。まるで似合わない。それはお互い様だ。
「ははっ、お前、SSSの副隊長だったんだな」
「知らなかったのか?」
「流石にSSSなのは知ってたけど、部屋入ってびっくりした。だっていつもご丁寧に上着脱いでシャツの肩章も外してたろ」
「あれはかさばるし暑いからだよ、そんなつもりはねえよ」
音無結弦、階級は准尉、軍医学校を出てあまり日は経っていない。転任前はこの基地に附属する医局の軍医だった。
それを俺が「腕の良い軍医を探してきて。あなたが佐官になるから副官の枠が増えるのよ、ちょうどいいじゃない」というゆりっぺの一言から直々に内定して引き抜いてきたのだ。SSS附の副官扱いで。よくそんなわがままが通ったものだなとしみじみ思う。うちの隊長様のことだから、どんなえげつない交渉をしたんだか。考えるだけでも背筋が寒くなった。
その軍医探しの白羽の矢が、この音無准尉に立ったというわけだ。
彼の編入を申し出るまでに、人となりをみるために接触を試みた。といえば聞こえはいいが、要するに一日中医局をぶらぶらしていたのだ。
面倒見の良い音無は、すぐに俺に気づいて話しかけてくれた。まぁ最初は同じ軍服を着てるというのに不審者扱いだったが。
窓際部署で暇だから白衣の天使が拝めて、尚且つ快適で清潔な医局にいるのだと言うと、なら手伝いの一つもしてほしいとぼやかれた。
ロビーで毎日のように定位置になったベンチに座り、だらだらとテレビを眺める。そこに時々音無が訪れて世間話をする。そんな毎日もなかなか悪くなかった。一応お目当てと言っておいた白衣の天使も拝めるしな。
「ここに来るってなったら、色々言われただろ」
掃き溜めだけはあって、あまり評判のお宜しくない我が隊に編入となれば、そりゃあすんなりとはいかないだろう。
「まぁな。でも気にしてないよ、お前が副隊長なら大丈夫だろ」
なんのつっかえもなく音無が言う。自信を持って紡がれた言葉は心地よく心に響く。
「そりゃ嬉しいね。ボスが曲者だけどな…そら、挨拶に行くぞ!」
ばん、と背中をたたく。気の合うお供が増えれば、あんな魔物怖くない。強がりでもそう思いたかった。
椅子にかけていた上着を音無に肩にかけられ、慣れないそれに袖を通す。前身ごろは座ったときに背中と擦れて、随分皺になっていた。
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