時系列が(思うままに書き殴る所為で)無茶苦茶過ぎるので、纏めてみました。
下に行くほど時間が経過します。
割と平和なものをひとつ追加。ライルが不思議ちゃん路線を驀進中(08/10/21)
擦れ違う双子
We are not an identical equation. new!
It is mothing more than our memory.
I'm just kidding!
Mind your own bussiness!
何を掻き立てられたのかも、もう判らない。
何だか思っていたものと随分違ったものが書けた、ような…
多分ニールさん視点。
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母方の祖父は本が好きだった。厳格さを持ち合わせない、柔らかく老いた人だった。
古めかしい家は図書館のようで、何時も黄ばんだ紙の匂いがする。手を伸ばした先には大抵本があって、暇な時には手当たり次第に読んでいく。文字を追っている間は他の事を考えない。そんな自分の頭の狭さが好きだった。
自分達に割り当てられた祖母の部屋だったと言う寝室も、例に漏れず古書の香に満たされていた。部屋のコルクボードには、骨董品のような祖父の一眼レフで撮られた写真が貼られている。その中は、今も在る人、既に亡き人の笑顔。勿論、祖母も。そして、あの三人も。
優しかったその祖父も二度目の春が来る前に亡くなった。彼を埋葬した後、親族での会食の席で今度の引き取り手は母方の叔母だと告げられた。喪服のまま荷物を纏めて彼女の大きめのバンに揺られる。他人からは親戚間の盥回しに見えるかもしれないが、皆優しい人たちだ。自分達から拒みたくなる程、やさしいひとたち。
最初から疑念は在ったのだ。このまま優しさに溺れても良いのか、何かすべき事が在るのではないのかと。時が経るにつれてそれらが膨らんでいき自分を急かしている気がしたのも、また確かなことだった。
そんな最中に、叔母からの問があった。
高等教育課程はどうするの、と訊かれた。この国では16歳までが義務教育課程で、その先に進む者は僅かだ。勿論そのつもりは無い。異口同音で答えれば、少し残念そうな顔をする。そう、あなた達がそうならいいんだけど。ならこれから、どうするつもり?大丈夫、言ってみて。彼女の表情は変わらない、少し残念そうで、寂しそうで、それでいて興味を忘れない。本当に、優しい人だ。
嘘をつく必要も無く、自分達の考えを話した。仕事を探すこと、彼女の元から離れること、遺児年金である程度は遣り繰りできること。彼女は驚いたように何回か瞬きをしてから、そこまで考えてちゃ止められもしないと苦笑した。笑うと妹に、似ていた。
16歳の、誕生日のことだった。
この選択が正しかったかは今でもまだわからない。急かされているというのは只の強迫観念で、動機として不十分だとは思う。それでも何かを変えたくて、彼女の元を離れたのだ。それだけは変わらない。
仕事を探して、それに見合うフラットを探して、家財道具を揃えて、彼女と別れた。別れ際の笑顔はやはり妹に似ていて、彼女の偶には連絡をしろという旨の言葉は殆ど耳に入っていなかった。
ささやかな二人の生活。質素倹約の筈なのに、本だけは溢れていった。路地を一本入った古本屋、その投売りのラックから、目に付いた本を買ってくる。それが日課になっていた。
双子、というかニールさん捏造過去話。
二期でそこら辺が明らかになるまでには書き終わりたい。
続き物です、お付き合いください。
今から300年も未来なんだから、インテグラルタイプのサプレッサーのひとつも完成しているはずと願望も込めて。
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カチャッ
人気のない路地、インテグラルサプレッサー、薬莢、こちらを見た昏い目、ヂヂ、と明滅するランプには虫達。
亜音速の銃弾は、狙いを誤たずに男の左胸へと吸い込まれた。
この近辺に潜伏しているというテロ組織構成員達の写真を、ずらりと並べて見せられた。中東系が5人、と現地協力員か、ブリティッシュらしき栗毛の男が1人。何らかの工作のためにこの都市へ送り込まれてきたのは明らかだ。根拠地は大体の予想通りだと判断できる語尾の響きを持っていた。何々人の土地、という意味らしい。分かりやすくて、嫌いじゃないな、そういうのは。
見慣れない人種だから顔の見分けがつかない、なんてことはもうなくなった。じい、と写真を睨む。大丈夫だ、俺もだ、という同志の声に連ねるように、覚えた、と一言簡潔に言う。出席者は自分を入れて8人。顔を見せていないのがあと3人いるが、どいつも自分より年上で、皆成人しているらしかった。
さして広くもない部屋はヤニで薄汚れ、その元凶は今も紫煙をあげている。久々にニコチンでも摂取するか。そう思って隣の男をつついてせびるも、生憎これで品切れだ、と目元を下げながら、彼は灰皿にまだ吸えるだろう煙草を押し付けた。子供扱いされているな、これは。ニコチンは諦めて今晩の献立を考えることにする。今日は自分の当番だった。
一発で済むならそれが一番だ。銃弾は無尽蔵にある訳ではないから、こんな男に何発もくれてやる義理はない。放たれる殺意の塊は疚しいルートで手に入れたものであり、今指をかけようとしている拳銃だって何処かの軍の払い下ろしで、銃把の底には渡された時から大きな傷がついている。
至近、5メートル、絶対に当たる。それでも照準は男の左胸、血を全身に送り出すところへ。
首の裏、脳幹の辺りを撃たない限りそれはショック死なのだと聞いたことがある。脳髄が飛び出すのを見るのは嫌いなんだよ、そもそも目の前の標的は心臓を撃たれて死なないような男には見えない。
冷静に弾一発の値段を割り出そうとしている自分に気付いて、手慣れたもんだ、と銃爪を絞った。男の命よりちっぽけな鉛玉の方が貴重だと自分の頭が弾き出す前に、撃っちまおう。そうすれば、御破算になる。
狙いを定めるのはこんなに簡単だったか、あぁそうだ、近頃はライフルばかり使っていたから、ホルスターから 拳銃を引き抜くのは久々だ。
サプレッサーでも音は、する。あの如何にも銃声です、といった音が響き渡らないだけで、何やら玩具の様な音が、するのだ。それに、惑わされている気も、しないでもない。映画のように見事な銃声が響いたら、おれはまた元のように竦み上がって逃げ出すかもしれない。安っぽい、とても薄っぺらいものに騙されて、酩酊して、 そのまま男と目があった。まさに死ぬ、その瞬間の目と。
ぞくり、肚か背骨か、その辺りから何かが体を駆け抜ける。それが元は恐怖だったことにさえ、もう麻痺した自分にはわからない。
区画整理が充分でないせいで薄暗い路地はフラットへの近道で、治安がよろしいとはお世辞にも言えないが、知り合いの多い地域でもあった。酒や人や物騒なものを扱う所には人が集まって明るく賑やかだ。そんな所を通ると何故かひっきりなしに声をかけられてしまうので、暗い方を選んで歩く。
ちらりと視界の端に入った灯りは、一昨日長話をしてしまった女主人の酒場だった。気立てが良く、店内は何時も人で溢れている。
その時片割れと間違って彼女は自分を呼び止めた。作り過ぎたから持っていって頂戴。まだ温かさの残るホワイトシチューを一鍋、手渡された。あれがまだ残っていたから、グラタンにでもしよう。
いつもライルに渡すんだけどね。そういってから彼女は、あ、と手で口元を押さえる。怪訝な顔で首をささやかに傾げて見せると、諦めるように肩を竦めた。ちょっと前からね、私の所で働いてるのよ、あの子。あなたには言うなって言われてたんだけど、だめね。隠し事って苦手。彼女は困ったように笑って、ここ最近片割れの稼いでくる札束の出所を教えてくれた。自分のそれと違って片割れが持ってくる金銭は汚れていないのだ。何とも言えない安堵が心を過る。
もちろん危ないことはさせてないわよ!店支度と厨房と手が足りない時はフロアにも出てもらってるわ。結構人気でちょっと嫉妬しちゃうくらい。わざとらしく拗ねた顔をする。決して若くはないが愛嬌があって可愛らしい。
だからあいつこの頃料理のレパートリーが増えたのか、と納得しながら、二言三言お世辞とも本心ともつかない讃美を添えて彼女と別れた。
そこから三つほど角を曲がった所だ。あの写真の中の一人に出くわしたのは。
まずった、と思った時には遅かった。目が合って、認識して、本能的な衝動で撃ってしまったのだと気付いた。脳を支配していたおぞましい熱は冷め、スローだった世界が動き出す。怒声、足音、中東系、写真の2人、銃口――が見える前に辛うじて走り出す。角から数歩の所に立っていたのが幸いした。自分の方が地理感覚は強いはずだ、そう思って大通りへ抜ける最短ルートを駆けだした。
入り組んだ路地だ。遠くとも10m先には角がある。洗濯物のアーチを潜って三つ目の角を曲がった。
どうやらこちらの方が足が速いらしい、急所を狙えはしないだろう。その考えが甘かった。役割柄、銃は狙って使うものだ、と思い込んでいた。あともう少しで大通りから二つ目の角、そこで甘っちょろい予想は裏切られる。
チャ、後ろから銃を構える気配。続けて三発、こちらもサプレッサーで抑えられた内部機構の動作音だけだ。一発目はレンガにめり込み、二発目は何処かで跳弾した高い音が鳴る。そして三発目は、自分の左上腕を掠っていった。鋭い痛みに思わず息を詰める。まさか。右手で押さえてみれば、そこは生暖かく濡れていた。運悪く太めの血管を切ったのか、傷の深さの割に出血が多い。
思わず舌打ちして、それでも速度を落とさずに大通りまで駆け抜ける。夜の繁華街は人で溢れていて、姿を眩ますには絶好の場所だった。色とりどりのネオンと濃い色の上着のお陰で左腕の出血は目立ちやしないが、他人に血糊が付かないよう、上着の布地を皺寄せて集め右手で強く握った。出来れば止血も兼ねられれば、と思いながら。
そういえば追っ手の二人に片割れと同じ造形をしたこの顔を見られたのだと気付いたのは、フラットが目視出来る所まで辿り着いた頃だった。彼女にあの使い込んだ鍋を返せそうにないな、と同時に思った自分を、一瞬後には殴ってやりたくなった。