AB!で軍パロ、またも冒頭のみ。
元ネタは音日クラスタに感謝!http://togetter.com/li/34846
+++++++++++++++++++++++
「こんにちは、死神さん。」
びく、と肩を揺らす。ここでは皆その名前を出さない。俺の前では、だが。
「軍医から聞いてるわ。もう治療は終わってるんですって? ベッドに余裕は無いから、さっさと出てってほしいってぼやいてたわよ。」
声の主はワインレッドの髪を揺らしながら尊大な態度でふんぞり返っている。俺の記憶が正しければ、こんな知り合いはいないぞ。初対面の人間になんつー態度だ。
オリーブドラブの平服を着ているから、軍属なのは確かだろう。ちらと階級章を窺えば、金糸が一本に星は無い。自分と同じ准尉だった。ならタメ口で、いいよな。
「何の用だ? もう戻るつもりはねえよ。このまま除籍にでもなればいい。」
そのために、リハビリもまともにせずに日がな一日こうやって白い天井を眺めているんだ。酷い戦傷の治療も、薬物依存を絶つためのプログラムも終わったというのに。
除籍になったら使うあてのなかった給料で、適当に生きていけばいい。そんな夢は脆くも崩れ去ろうとしていた。上は自分を手放す気はないらしい。今度は一体、何に使うつもりだ?
「あなたも面倒なことに巻き込まれたものね。フレンドリー・ファイアなんて…しかも上の手が入っていたとは…」
よく調べたもんだ、と目の前の女に少し興味を持つ。心に何かが響いたのは、久しぶりの感覚だった。
そう、不穏分子を一掃するための仕組まれた友軍攻撃。それが先の戦線の実態だ。その作戦指揮を担っていたのが、俺だった。
それはそれは酷い有様で、常用していた薬物の摂取量はストレスで桁違いに増えるわ、半身は吹っ飛ばされそうになるわ、あげく辛くも生き残った俺についた忌み名が『死神』だ。
踏んだり蹴ったりここに極まれり。その時は確かに除隊してやろうと心に決めたんだ。
だが除隊届けは受理されなかった。当該理由は人員の不足。俺にこれ以上何の価値があるんだ。どこまで使い切るつもりなんだ。ならいっそ、もうどうにでもなれ、と。戦地から帰ってきたときの怒りを忘れたかのように、虚ろに死んだように生きていた。
「まぁそんなことはどうでもいいのよ。あなたのその人生、ちょっと私に預けてみない?」
女は名乗りもしまいままにそう提案して手を差しのべる。そんなこと、で片付けられた俺に重く圧し掛かる過去。じり、と感情が動く音がした。その方向の正負はわからない。ただ、この女についていけば自分はもう一度生きることが出来ると本能的に感じとった。この手をとれば、きっと。
このまま上に飼い殺しにされるくらいなら、この女についていって暴れまわってやろう。見返すとまではいかないが、一矢報いるくらいは出来るかもしれない。
随分と肉のこけた手でその手を握り返すと、彼女は満足そうに笑って俺の腕に繋がる点滴の管をダガーで引きちぎった。
お前、いくら使い捨てだからって、そりゃないだろ。そういえばまだこの破天荒なパートナーの名前を俺は知らなかった。
「名前は、」
「あたしは仲村ゆり。わかってるみたいだけど准尉よ。日向君。」
ぐい、と腕を掴んで上体を引っ張り起こされる。近くで見れば結構な美人だった。初めて真正面から相対した気がする。
「まずはその長い前髪、邪魔ね!」
突然何を言い出すかと思えば、伸びきって視野を狭めていた長い前髪をむんずと掴んでダガーで好き放題切り上げられた。ほんと大丈夫か、こいつ。こいつについてってもいいのか、俺。
「ほら、男前じゃない!」
自信たっぷりに笑う彼女に、俺は悪魔と契約してしまったのではないかと、先刻の握手を早々に後悔した。いまや視野はこんなにも広い。世界はこんなにも明るかったか。せめてこの真っ白な病室を早く出たいと、今度は彼女の腕を引いてベッドをおりて歩き出した。リハビリもしておけばよかったと、今日二度目の後悔。
そこに残っていたのは、長さもまちまちな青い髪と、行き場を失ったブドウ糖液の水溜りだった。
薄暗い神様が降りてきてサマーウォーズの薄暗い話が出来ました。
ネタバレ注意です!
何時か漫画にしたいネタ。
兄ちゃんと第五共和制初代大統領です。
森/之/宮/神/療/所シリーズ(特に一作目)をヘビロテ中です。
ほんとずっと聴いてると奉納したくなるから不思議。
アニュライ小話(らいるさんのグズグズした独白とも言う)を書いたので投下。
そういえばハニーって女性から男性への呼びかけでも使うそうですね。
ということで表題はあにゅさん→らいるさんで。
今更のような気がしますが死にネタ注意です!